社用車の運転者管理について解説
運転者の状態と安全性の管理
社用車を安全に使用するためには、適切な車両管理を行うことが大切です。
定期的な点検や整備により車両の安全性を維持すると共に、社用車を使用する運転者の管理も必要になります。安全に運転するための環境設定や運転マナーの教育など、運転者の状態や行動に関する適切な管理を行うことで、社用車を安全に使用することができるのです。
アルコールチェックと状態監視
事業用自動車による飲酒運転根絶のため、社用車を一定台数以上保有する事業所は、アルコール検知器を使用して運転者の酒気帯びの有無を確認することが義務付けられています。
従来の法規制では運送業や旅客運送業などの緑ナンバー車両を保有する事業所が対象でしたが、2023年12月1日より、社用車など自家用自動車の白ナンバー車両もアルコールチェックが義務化されました。
社用車を使用する前にはアルコールチェックだけではなく、健康状態のチェックなど従業員の状態を監視し、安全に運転できる状態なのかを確認することが重要になります。
アルコール検査の実施方法
アルコール検査は出勤時と退勤時の1日2回確認が必要です。運転者は管理者立会いのもと、アルコール検知器に息を吹きかけて酒気帯びの有無を確認します。
直行直帰により事業所で検査できない場合は、携帯型のアルコール検知器を利用し、カメラ・モニターやスマートフォンで管理者がリアルタイムに確認してください。検査の様子を直接見ることができない場合は、運転者の顔色や声の調子などの数値以外の情報で異常がないか確認することも重要です。
また、検査の結果は必ず記録に残し、1年間は保管しておかなければなりません。
運転前の健康状態チェック
管理者は乗務前の点呼で運転者の健康状態をチェックします。確認する際は、顔色や声色など運転者の様子に異変がないかを至近距離で確認することが大切です。病気の前兆が外見上に現れていたり、運転者の自覚症状で何か異変を感じた場合は、無理に乗車させずに運転の可否を判断してください。また、健康診断の結果を踏まえて、運転者の健康状態を把握しておくことも必要です。
不適切な状態での運転防止策
運転者と管理者、両者共に病気の「前兆」となる症状を知っておくことで、不適切な状態の運転を未然に防ぐことに繋がります。運転者が異変を感じたらすぐ伝えられるように、日頃から言いやすい環境や関係性を構築しておきましょう。
長時間運転と休息の必要性
長時間の運転は疲労の蓄積や眠気を引き起こす原因になります。疲労や眠気は、運転者の集中力や判断力を低下させるため、運転ミスが誘発され事故に繋がる可能性があります。安全に運転するためにも、運転者は適切な休息をとらなければなりません。
合法的な運転時間と休憩規定
運送業などの長時間運転を行う運転者には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」により、連続運転時間や休憩時間について定められています。規定により「連続運転時間4時間毎に30分以上の休憩の確保」が必要なため、計画的な運行が求められます。
疲労運転防止のための休憩スケジュール
疲労運転を防止するためには、計画的に休憩スケジュールを組んでおくといいでしょう。連続運転時間を4時間以内で設定し、休憩ポイントを決めた上で小まめに休憩を取ることで、疲労の蓄積を軽減することができます。但し、規定により30分の休憩を分割する場合は、1回の休憩を10分以上に設定する必要があります。
休憩時間の監視と記録
運転者の休憩時間は「運転記録計」により監視することができます。
「運行記録計」は車両総重量が7トン以上、又は最大積載量が4トン以上の車両には装着が義務付けられており、運転者の法定速度、走行距離、連続運転時間、休憩時間などが記録されます。
運転技術と運転マナーの管理
一般道を社用車で走行する運転者の技術やマナーは、企業のイメージに影響するため、運転者は常に安全運転に徹することが大切です。管理者は安全運転を推進するために、運転技術向上のための技術トレーニングや、安全運転指導によるマナー管理が必要になります。
運転マナーを励行するためには、運転者を継続的に監督することが大切です。管理者は安全運転に関する技術や知識の指導と、「交通安全教育指針」を活用した教育を行い、運転者の安全運転意識を高め続けることが求められます。
運転研修と評価
運転者の安全に対する認識を高めるためにも、社内で定期的に運転研修を行いましょう。自動車教習所の教官や専門家を招いた実習は、より実践的な技術トレーニングとして有効的です。また、無事故無違反を継続している運転者には、運転技術を評価することで安全運転を定着させることにも繋がります。
運転スタイルのフィードバックと改善
運転スタイルは運転者によりさまざまなので、抱えるリスクも異なります。運転者の特性や性格を踏まえたフィードバックや個別の技術指導を行い、運転スタイルの改善を図りましょう。
安全運転管理者の役割と選定
社用車を一定台数以上保有する事業所では、自動車の安全運転を推進する者として「安全運転管理者」を選任しなければなりません。安全運転管理者は道路交通法の規定に基づき、安全運転の指導や教育、運転者の適性判断や運行計画書の作成など、事業所の安全運転に関わる業務を遂行する管理者として、とても重要な役割を担っています。
安全運転管理者の重要性
社用車を保有する企業において、交通事故の防止や道路交通法の遵守に取り組むことは必要不可欠になります。安全運転管理者が運転者に安全運転の教育や指導を行うことで、改正される道路交通法が遵守され、事故や違反の防止に努めることができるのです。
管理者の役割と責任
安全運転管理者は運転者の健康状態の確認やアルコールチェック、運行計画の作成や運転日誌の記録、運転者に対する指導や教育など、事業所の安全運転を遂行するための業務は多岐にわたります。運転者となる従業員の運行しやすい環境を整えて、事故や違反の防止に努めるため、安全運転管理者の事業所における責任は重大です。
選定基準と資質
安全運転管理者の選定基準は「20歳以上で、自動車の運転管理に関し2年以上の実務経験を有する者」と定められています。但し、資格要件を満たしていても、過去2年以内に特定の交通違反や事故を起こしている方は、安全運転管理者になれない可能性があるため注意が必要です。
管理者の研修と教育
安全運転管理者は、公安委員会が実施する「安全運転管理者等法定講習」を毎年1回受講することが義務付けられています。安全運転管理者等法定講習では、安全運転管理者が安全運転に関する管理をする上で必要な知識と業務を習得することができます。
安全運転管理プログラムの実施
安全運転管理者は、事業所の安全運転を確保するために安全運転管理プログラムを実施しましょう。安全運転管理プログラムは、社用車を使用する全従業員の安全運転に対する意識を向上させるのに有効です。
安全ポリシーの策定と実行
安全運転の必要性や重要さなど、安全運転に対する基本方針を「安全ポリシー」として策定します。安全ポリシーは、従業員の安全に対する意識の向上や、安全運転を実行しやすい環境整備に効果的です。
定期的な安全会議とトレーニング
安全運転管理者は社内指導者として、安全運転に関する技能と知識を従業員に指導・教育しなければなりません。定期的に安全会議や技能トレーニングなどを行い、運転者の安全に対する意識や運転技術の向上に努めましょう。
安全運転のためのインセンティブと報奨
安全運転のためのインセンティブや報奨制度の導入は、運転者の安全向上とモチベーションアップを実現します。安全運転によるインセンティブを受け取ることで、運転者のモチベーションが上がり、継続的な安全運転に繋がります。また、一定期間以上の無事故無違反による報奨は、事故リスクの軽減や運転技術の向上にも役立ちます。
事故発生時の対応と分析
車に乗る以上、どんなに安全運転を心がけていたとしても事故を起こしてしまう可能性はゼロではありません。いざという時に適切な行動をとるためにも、事故発生時の対応策を事前に把握しておくことが大切です。
事故対応プロトコル
1:負傷者の救護 負傷者がいる場合は最優先に救護措置を行い、速やかに救急車を呼んでください。
2:二次被害防止のため安全な場所への移動 事故直後は後続車両の追突など、さらに被害が拡大する可能性があるため、ハザードランプの点灯や三角停止版、発煙筒を使い二次被害の防止に努めることが大切です。また、自走できる場合は、車両を安全な場所へ移動させてください。
3:警察へ連絡 事故が起きたら、必ず警察に連絡してください。連絡の際には、事故の場所、被害状況、ケガ人の有無など事故の状況を分かりやすく伝えます。
4:相手の情報確認、連絡先交換 事故相手の氏名、住所、連絡先、車種、登録番号、保険会社などを確認しましょう。確認の際は必ずメモを取り、必要であれば相手の免許証をスマートフォンで撮影しておきましょう。
5:事故現場の情報を収集・保存 記憶が新しいうちに、速度や信号機など事故発生時の状況をメモしておきます。また、損傷個所については自車、相手車共に撮影しておき、証拠として残しておくことも大切です。
6:会社と保険会社に連絡 事故が起きたことを会社に連絡し、事故後の行動は会社や管理者の指示に従います。加入している保険会社にも事故の報告を行い、必要であればレッカーやロードサービスの手配について確認します。
7:病院で医師の診断を受ける 身体にケガや痛みがなくても、必ず病院で医師の診断を受けましょう。事故直後は緊張状態により痛みに気づかないことがあります。数日経過して痛みが出ることもあるため、事故を起こした際は必ず病院で受診するようにしましょう。
事故の原因分析とレポート
事故の後は、記憶が鮮明なうちに現場の見取り図を作成し、衝突部位など事故により破損した箇所は写真を撮って事故の記録を残しましょう。事故当事者は事故の原因を分析して、作成した記録と共に分析レポートを会社に提出します。
事故後の改善措置
安全運転管理者は事故後、当事者の記録とレポートを基に改善措置を講じて事故の再発防止に努めることが必要です。
運転者のパフォーマンス管理と評価
運転者の年齢や経験、走行場所など運転者のパフォーマンスに基づいたリスクを明確にすることで、安全上影響を及ぼす可能性があるリスクに対処することができます。運転者の個別に取り組む安全目標を設定するためにも、パフォーマンスの管理や評価が重要になるのです。
運転データの収集と分析
運転者の運転特性を把握しておくことで、事故や危険運転に繋がるリスクを軽減することができます。安全運転に影響を及ぼす傾向を理解するためにも、運転者の運転データを収集して個人の運転特性を分析することが重要です。
テレマティクスシステムの活用
テレマティクスシステムはインターネットの通信システムを搭載することで、車両に関する情報をリアルタイムに確認できるシステムです。テレマティクスシステムを活用することで、インターネット上で車両の位置情報や交通状況など様々な情報が確認できるため、運転データの収集や管理が容易に行えます。
運転行動のモニタリング
センサーやカメラを活用したモニタリングシステムは、運転者の運転行動を監視するシステムで、眠気や疲労、ストレスや緊張など、運転に集中できていない状態を検知すると、必要に応じて注意喚起や休憩を提案してくれるシステムです。運転者の体調管理や不注意による事故を未然に防ぐためにも、モニタリングシステムの活用は有効です。
データに基づくフィードバック
運転者のアクセル・ブレーキの強さや頻度など、取得した運転データに基づき運転者の行動と特性を分析し、安全運転に関するフィードバックを個別に行います。
運転者評価とフィードバック
運転車に対する評価やフィードバックを行うことで、運転車は自身の運転スタイルを自己認識することができます。運行時の最高速度や平均速度、急ブレーキや急ハンドルなど、違反や事故につながりやすい運転を自己認識することで安全に対する動機付けや、運転技能の向上にも役立ちます。
定期的な運転評価、継続的なフィードバック
定期的な運転評価は運転者の安全に対する認識を維持することができるので、安全運転を促すのに長期的な効果が期待できます。運転車へのフィードバックは一度のみならず、継続的に行うことが大切です。管理者は改善点の進捗確認や、新たな問題を発見するためにも、継続的なフィードバックを実施するようにしましょう。
緊急時対応トレーニング
事故などの緊急時には、パニックに陥らずに冷静に対応しなければなりません。いざと言う時に適切な対応が行えるように、緊急時対応トレーニングで訓練しておきましょう。
エコドライビングと燃費効率
環境に配慮したエコドライブは燃費効率を向上させるだけでなく、安全運転にも繋がります。エコドライブの意味と運転方法を理解し、ゆとりを持った運転を行いましょう。
テクノロジー活用による運転者管理の最適化
IoTデバイスやアプリケーションの活用により、運転者の状況把握や運転支援など、きめ細かなサポートが可能になりました。テクノロジーを有効活用することで、運転者管理の最適化を図ることができます。
デジタルツールとアプリケーション
スマートフォンやタブレット端末など、デバイス上で起動するアプリケーションなどのデジタルツールは、車両管理において多くの機能を果たすことができます。また、デジタルツール自体をインストールやダウンロードにより導入が容易に行えるため、コストの削減にも繋がります。
モバイルアプリによる運転支援
モバイルアプリをインストールすることで、スマートフォンを車の運転支援システムとして利用することができます。スピードの超過警告、経路の確認、渋滞予測やエコドライブなどアプリによって様々な運転支援が行えます。
GPSとリアルタイム追跡
GPSによる車両追跡機能は位置情報をリアルタイムに確認することができるため、運行状況や走行ルート、休憩場所や時間など運転者の現在の状況を把握することができます。
AIを活用した運転分析
ドライブレコーダーによる車内外の映像データや走行データを基に、画像解析技術とAIを活用した運転分析を行います。得られる分析結果はフィードバックにより、危険運転の抑制や運転特性の改善に役立てることができます。
IoTとコネクテッドカー
自動車をIoT化することにより、インターネットを介した相互通信が可能になります。このようなIoT化された自動車を「コネクテッドカー」と呼び、自動車の制御や監視・分析など相互通信により様々な用途で活用されています。
IoTデバイスによる運転データ収集
コネクテッドカーのIoTデバイスにはさまざまな運転データが記録されています。記録されたデータを収集して分析することにより、運転者の運転特性に合わせた安全運転指導や労働環境の改善に役立てることができます。
コネクテッドカーの安全機能
コネクテッドカーは車両同士の相互通信が可能なため、危険を検知すると車両に装備された安全機能が作動します。たとえば前方で急ブレーキをかけたコネクテッドカーを検知した場合、警告音により運転者に危険を知らせたり、衝突被害軽減ブレーキの作動による衝突回避が行われます。事故を検知すると自動で警察や救急に通報してくれる「緊急通報システム」もコネクテッドカー特有の安全機能の一つです。
自動運転とアシストシステム
自動運転やアシストシステムの活用は、事故リスクを軽減させるとともに、運転者の安全運転にも繋がります。また、自動運転システムの操作は、エコドライブ効果も発揮するため燃費効率の向上も期待できます。