安全運転管理者とは?運行管理者との違いや選任基準についても解説
安全運転管理者の概要
安全運転管理者とはどのような資格なのか、取得するにはどのような条件があるかについて説明します。
安全運転管理者とは
安全運転管理者とは、一定台数以上の車両を使用する事業者に選任が義務付けられている資格で、従業員の安全運転を指導し交通事故を防止する役割があります。
1965年(昭和40年)6月、自家用車による交通事故の多発を受けて安全運転管理者制度は誕生しました。この制度は、事業者が保有する車両の適切な管理監督を通じて事故を防ぎ、従業員や一般の人々の安全を守ることを目的としています。
道路交通法第74条の3項に基づき、一定台数以上の車両を使用する事業者には安全運転管理者の選任が義務付けられており、この規定を怠ると罰則の対象となる可能性があります。
安全運転管理者は、事業者における安全運転の責任者としての重要な役割を担っています。具体的には、運転状況の監視や安全対策の徹底、ドライバーへの教育などを通じて、事故防止と交通安全意識の向上に努めます。
このような取り組みは、法令遵守にとどまらず企業価値の向上にもつながります。安全運転への積極的な姿勢は、安全を重視する責任ある組織としての信頼性を高めるからです。それは取引先との良好な関係構築や優秀な人材の確保、事業者の持続可能な成長にも影響を及ぼすでしょう。
安全運転管理者の業務内容
安全運転管理者の9つの業務内容は以下の通りです。
①運転者の状況把握
運転者の適正や技能、交通法規の遵守状況を把握し、必要に応じて改善するよう努めます。
②運行計画の作成
過労運転を防ぎ安全運転を確保するために運行計画を作成し、ドライバーが安全に業務を遂行できるようサポートします。
③交代要員の配置
長距離や夜間の運転がある場合、疲労による影響を防ぐために交代要員を配置する必要があります。
④異常気象時等の安全確保の措置
異常気象や天災により安全運転が難しい状況では、適切な指示や措置を講じて安全を確保します。
⑤安全運転の指示
運転者に対して点呼や車両点検を行い、飲酒や疲労の有無を確認して安全運転に必要な指示を出します。
⑥アルコール検知器を用いた運転前後の酒気帯び確認
運転前後にアルコール検知を行い、酒気帯びの有無を確認することで安全運転に努めます。
⑦アルコールチェックの1年間の記録保存
アルコールチェックの結果を1年間保存し、検知器が正常に機能する状態を維持します。
アルコールチェックの義務化について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
https://oppice.parkingmarket.co.jp/article/manegement/1042/
⑧運転日誌の記録
運転終了後に運転日誌を記録し運転状況を把握することで、安全運転管理の資料とします。
⑨運転者に対する指導
交通安全教育指針に基づく教育を行いドライバーの技能や知識を向上させ、安全運転の維持に努めます。
安全運転管理者になるための条件
安全運転管理者になるためには年齢制限や必要な講習を受ける必要があります。これらについて解説していきます。
安全運転管理者の資格要件
安全運転管理者の資格取得には年齢制限が設定されており、20歳以上であることが求められます。ただし、副安全運転管理者を配置する場合には対象年齢が30歳以上である必要があります。また、自動車の運転管理に関する実務経験が2年以上あることが条件です。
そして、「安全運転管理者等法定講習」を受講することが義務付けられています。年間に1回以上受講しなければならず、安全運転管理者は6時間以上、副安全運転管理者は4時間以上の受講が必要です。最近では、オンラインでの受講が可能な場合もあります。
講習では、安全運転管理者として必要な知識を幅広く学びます。自動車と道路交通の安全運転管理方法やドライバーへの交通安全教育に必要な知識、最新の道路交通事情や交通事故の実態、交通事故における賠償責任の事例など、その内容は多岐に渡ります。
副安全運転管理者の資格要件
副安全運転管理者は、年齢が20歳以上であり自動車運転管理に関する1年以上の実務経験を持つことが資格取得の条件です。安全運転管理者を補助するために設けられている資格ですが、安全運転管理者が不在である時や業務遂行が難しい場合には、点呼やアルコールチェックなどの業務を代行します。
また、事業者の車両保有台数に応じて副安全運転管理者の必要数も変わります。20台以上40台未満のときは1名、40台以上の場合は20台ごとに追加で1名の選任が必要です。
副安全運転管理者の主な役割は安全運転管理者をサポートすることですが、その業務内容は基本的に安全運転管理者と同様です。それは、サポートを超えて将来的な安全運転管理者の後継者を育成する意味合いも含まれているからです。
資格要件を満たしていても安全運転管理者・副安全運転管理者になれないことはある?
過去の行為により、安全運転管理者もしくは副安全管理者になれないケースがあります。まず、2年以内に都道府県公安委員会から安全運転管理者等の解任命令を受けた人物は、その資格を得ることができません。また、交通違反の履歴も重要な判断材料となり、酒酔い運転や酒気帯び運転、麻薬等を使用しての運転、いわゆる「あおり運転」と呼ばれる妨害運転、無免許運転などの重大な違反行為を犯してから2年が経過していない場合も管理者になる資格はありません。さらに、事故時の救護義務違反や飲酒運転に関連して車両や酒類を提供する行為、無免許運転を助長するような行為も同様です。
管理者になれるのは、前提として普段から安全運転を励行している人のみです。
車両管理責任者や運行管理者との違い
車両管理責任者は、会社が所有する社用車の管理を担当する人のことを指します。これは法律で義務付けられているものではなく選任は任意です。したがって、事業者が車両管理責任者を任命しなかったとしても法律違反にはなりません。車両管理責任者の業務には社用車の維持管理や運行計画の立案などがありますが、会社独自の判断で内容を決定できます。
一方で、安全運転管理者は道路交通法によって定められた資格で、一定台数以上の車両を使用する事業者に選任が義務付けられています。そのため、事業者によっては安全運転管理者と車両管理責任者を兼任させることもあります。
運行管理者は、安全運転管理者と同様に従業員の安全運転を確保する重要な役割を担っていますが、その違いは管理対象となる車両にあります。運行管理者は緑ナンバーの事業用自動車(トラック、バス、タクシーなど)を対象とし、一方で安全運転管理者は、白ナンバーの自家用自動車を管理します。
運行管理者を配置している事業者では、白ナンバーの車両も運行管理者が管理できるため、安全運転管理者の選任は不要です。ともに法律に基づいた制度ですが、運行管理者は国家資格であり、貨物または旅客の資格証を取得するために試験が存在します。
安全運転管理者はどういう場合に選任が必要?
事業者は一定台数以上の車両を使用する場合に、安全運転管理者を選任しなければなりませんが、事業者規模によって違いはないのかを確認していきます。
安全運転管理者の選任が必要な要件
安全運転管理者の選任が必要かどうかの基準は、事業者が保有する自動車の種類や台数によって決まります。
まず、乗車定員11人以上の車両を1台以上使用している事業者では、安全運転管理者の選任が必須となります。それに該当しない車両については、5台以上使用している場合に選任が必要です。
また、自動二輪車の場合には1台を0.5台として計算します。つまり、自動二輪車10台で5台分とみなされるわけです。ただし、50cc以下の原動機付自転車はこの計算に含まず台数にカウントされません。
そして、所有者の名義に関わらず、リース車や個人所有の車両を業務に使用している場合も台数に含める必要があります。車両を実際に管理し使用している場所が基準となるため、事業者はどの車両が該当するかを慎重に確認し、必要に応じて安全運転管理者を選任しなければなりません。
副安全運転管理者の選任が必要な要件
副安全運転管理者の選任が必要かどうかの選任数は、使用する車両の台数に応じて変わります。20台以上40台未満では1人、それ以降は20台ごとに1人ずつ増えていきます。このように、組織の規模に合わせて適切な人数の副安全運転管理者を配置することで、より効果的な安全運転管理が可能になるのです。
安全運転管理者等の選任の届出義務
安全運転管理者の選任を行った際には、その日から15日以内に都道府県公安委員会へ届出をすることが義務付けられています。手続きは、事業者を管轄する警察署の交通課窓口で行えます。多くの都道府県警察ではウェブサイトで申請書の書式を公開しているため、まずは所在地にある警察署のサイトを確認するのがよいでしょう。
令和4年1月4日からは警察行政手続サイトを通じたオンライン申請も可能となっています。
届出の際は届出書のほか、運転管理経歴証明書や2年以上の運転記録証明書、運転免許証や住民票の写しなどの提出が求められることが一般的です。都道府県によっては履歴書が必要な場合もあるため事前に確認が必要です。
また、安全運転管理者を交代する際も15日以内に変更届の提出が必要となるため、この点も忘れずに対応しましょう。
次に、安全運転管理者等の選任に関する届出内容に変更があった際には、速やかに変更届を提出する必要があります。具体的には、事業者の名称や住所、車両台数、ドライバーの人数といった重要事項に変更が生じた場合です。
変更届の提出先は、該当する事業所の所在地を管轄する警察署の交通課となっています。変更届の様式については、警察庁の公式ウェブサイトからダウンロードが可能となり、オンラインでの提出も受け付けています。
安全運転管理者を選任・届出しなかった場合の罰則
安全運転管理者を選任・届出しないと社会的信用が失われ、取引先との信頼も損なわれます。さらに、従業員からの不信感で優秀な人材が流出する恐れがあるため、法令遵守は不可欠です。
安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反による罰則
道路交通法の一部を改正する法律(令和4年法律第32号)として2022年4月27日に成立し、同年10月1日から施行された改正により、安全運転管理者および副安全運転管理者の選任義務違反に対する罰則が大幅に強化されました。
選任基準に該当する事業者が安全運転管理者等を選任しない場合、従来の5万円以下の罰金から10倍に引き上げられた50万円以下が科されることになったのです。
安全運転管理者の解任命令違反による罰則
行政機関は、道路交通法第74条の3第6項に基づき、安全運転管理者がその職務を十分に果たせず、または法令違反が判明した場合に解任命令を発することができます。
解任命令を無視して従来通り管理者を続けたり、命令に反して再任したりすることは法律に反するのです。この命令に従わないと以前は5万円以下の罰金が科されていましたが、法改正により現在では50万円以下が科されます。
安全運転管理者等の選任解任届出義務違反による罰則
前述の通り、安全運転管理者の選任を行った際には、15日以内に都道府県公安委員会へ届出が必要です。
安全運転管理者を選任しても、業務多忙や認識不足により選任や解任の届出を怠った場合、5万円以下の罰金が科されることになります。届出義務違反についても、2万円以下の罰金だったものが引き上げられ厳しい処罰へと改定されました。
まとめ
この記事では安全運転管理者制度について解説しました。この制度は交通事故防止と安全意識向上を目的として1965年(昭和40年)に誕生しました。
60年ほどが経過していますが、何度かの法改正を経て現代社会においても重要な役割を担っています。また、法令遵守にとどまらず、事業者の社会的信用や企業イメージ向上にも影響を与える重要な制度にもなっています。ですから、安全運転管理者を確実に選任し、それを適切に運用していくことで、持続可能な成長と発展につなげましょう。