人身事故で請求できる賠償金の内容や事故に遭った後の流れについて解説

交通事故で負傷した場合に、適切な賠償金を受け取るためには、事故直後の対応から損害賠償請求まで、正しい手順を踏むことが重要です。人身事故における賠償金には、治療費などの実費である積極損害、休業損害などの消極損害、精神的苦痛に対する慰謝料など、さまざまな項目が含まれます。
この記事では、人身事故における賠償金の内容や事故後の流れについて詳しく解説します。スムーズな賠償金請求のために、必要な知識と手順を理解しておきましょう。
人身事故の定義
人身事故とは、交通事故において人が怪我をしたり命を失ったりする場合を指します。
人身事故で請求できる賠償金の内容
人身事故により請求できる賠償金は多岐にわたり、精神的損害や財産的損害、物的損害などに分類されます。
損害賠償金
損害賠償金は、人身事故における身体的損害や精神的損害に対する補償として求められます。
積極損害
積極損害とは、人身事故によって被害者が実際に支払いをした費用のことで、治療費や通院交通費、付添看護費、入院中の雑費が含まれます。たとえば、応急手当費や診察料、投薬料、手術費、そして付添看護人を雇った際の費用などがこれに該当します。
また、交通費については公共交通機関の利用が原則ですが、それが困難な場合にはタクシー代という形で請求できます。松葉づえや車いす、義肢やメガネといった器具の購入費も積極損害として算入されます。
さらに、被害者が亡くなった場合には葬儀費用も含まれ、通夜や葬儀、その他の関連法要の費用、墓石や仏壇の購入費用も対象となります。
消極損害
消極損害とは、事故によって得ることができなくなった利益を指し、特に収入に関わる部分が多くを占めます。
事故による怪我の影響で休業を余儀なくされた場合、その期間の収入減少を補償するのが休業損害です。これには給与所得者や自営業者だけでなく、家事を担う専業主婦や主夫、学生も請求可能です。
また、事故によって後遺障害が残ったり死亡したりしたことで、将来の収入が得られなくなった場合には、逸失利益が補償されます。それには、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。
後遺障害の場合は生涯収入が対象になります。生涯年収とは、事故がなければ、その人がもっと長い間働き、稼げたと考えられる収入を指します。死亡の場合は将来の収入が対象となります。もしその人が生きていたら、将来どれくらいのお金を稼げたかを計算したものが将来の収入です。具体的な補償金額は、基礎収入や労働能力喪失率などを基に計算され、請求されます。
物的損害
交通事故によって車両やその他の物品が損壊した際に発生する損害を物的損害といいます。物的損害の中でも特に多いのが、車両の修理費や買い替え費用です。修理費は、修理の妥当性が認められる範囲で実際にかかった費用を請求することができます。
車の買い替えについては、新車の価格ではなく、同車種かつ同程度の中古車の価格を請求できます。そして、評価損として、事故による修理で落ちた市場価値分も請求が可能です。
また、修理期間中に代車を使う場合、その費用も損害賠償の対象になります。営業車両では営業ができない期間の損失、つまり休車損害も賠償請求に含まれ、通常「1日当たりの平均売上額から経費を引いた額×休業日数」で計算されます。
慰謝料
慰謝料は、交通事故による精神的な苦痛への金銭的補償で、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。それぞれ説明していきます。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、事故で負った怪我の治療で、病院に通った期間の精神的な苦痛を補償します。たとえ一日だけの通院でも請求は可能です。金額の算出には自賠責基準や弁護士基準が使われ、治療期間や通院日数、入院日数などに基づいて計算されます。
具体的には、自賠責基準では「4,300円×治療期間」または「4,300円×(入院日数+実通院日数)×2」のいずれか少ない方が基準となります。一方、弁護士基準や裁判所では特定の算定表を使用し、重症とされる場合とむちうちや打撲などの軽症の場合で異なる表を用います。
後遺障害慰謝料
交通事故による後遺障害が原因で生じた、精神的苦痛に対する金銭的補償を後遺障害慰謝料といいます。交通事故によって後遺症が残り、「後遺障害等級」として認定されることが条件です。後遺障害の等級は1級から14級まであり、症状が重いほど低い数字が割り振られます。自賠責基準でも弁護士基準でも等級ごとに慰謝料の金額の目安が設定されていますが、弁護士基準のほうが自賠責基準よりもおおよそ3倍の金額になります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、交通事故で被害者が死亡したことによる精神的苦痛を金銭補償するものです。この慰謝料は、遺族が請求するもので、請求額は亡くなった被害者の家族内での立場により変動します。自賠責基準では、被害者と遺族の慰謝料を分けて算出しますが、弁護士基準では被害者と遺族の慰謝料を合わせた金額になります。通常、自賠責基準よりも弁護士基準のほうが高額になります。
人身事故に遭った後の流れ
事故に遭った時には、直後から適切な行動を取ることが、後のトラブルを回避するために重要です。
事故に遭った直後
事故に遭った直後には、まず冷静に状況を確認し、必要な手続きを進めましょう。
警察に連絡する
交通事故に遭ったら、事故の大小を問わず、すぐに警察に連絡することが重要です。これは法的義務であり、事故相手が連絡を避けることを提案してきても、必ず警察に報告しましょう。警察に連絡することで「交通事故証明書」や「実況見分調書」が作成され、以降の損害賠償請求や保険請求において重要な証拠となります。怠った場合は、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科される可能性があることに注意しましょう。
交通事故証明書は事故の発生の証拠として、実況見分調書は当事者立会いのもと事故現場で確認した状況を証拠としてまとめたもので、賠償請求時に不可欠です。
人身事故として処理されているかを確認する
交通事故が発生した際、警察が発行する「交通事故証明書」や保険会社からの通知書で、人身事故として処理されているかを確認しましょう。「照合記録簿の種別」に記載されている内容を見れば判断できます。
もし、物損事故として処理されていた場合でも、人身事故に切り替えることが可能です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
https://oppice.parkingmarket.co.jp/article/maintenance/1172/
入院や通院で治療を受ける
人身事故に遭った際には、入院や通院で治療を受け、診断書の作成など必要な手続きを進めることが重要です。
病院で診断書をもらう
事故後はできるだけ早く病院を受診し、診断書を手に入れましょう。事故から時間が経ってしまうと、怪我が交通事故に起因するものかどうか疑われる可能性があります。
検査で怪我の状況を把握したら、医師の指示に従い治療を進めてください。通院時には、痛みや生活における影響を医師に詳細に伝え、カルテに記録してもらうことも大切です。
定期的に通院することが重要で、仕事や家事が忙しいとしても通院回数を減らすことは避けるべきです。通院回数が少ないと入通院慰謝料が減額されたり、再開後の治療費が損害賠償請求で承認されなかったりする場合があるからです。後遺障害等級の認定にも悪影響を及ぼしうるため、十分な治療を受けることが大切です。
完治しない場合、後遺障害等級の認定を受ける
治療を尽くしても完治せずに症状が残る場合には、後遺障害等級の認定を受けることが必要です。これは、自賠責保険に対して後遺障害等級認定の申請を行うことで受けられます。後遺障害の程度によって1級から14級に分類され、数字が小さいほど重い障害となります。
加害者側の保険会社を通じて申請することも可能ですが、被害者側に不利に働く恐れがあるため、被害者自らが申請手続きすることも可能です。この場合、必要な書類を自分で集め、充実した内容で陳述書を提出できるため、より高い等級の認定を受けやすくなるでしょう。手続きが複雑なため、弁護士にサポートを依頼するのも一案です。
損害賠償の請求をする
人身事故に遭った際には、損害賠償の請求をして受けた損害の回復を目指しましょう。
示談交渉をされた場合
交通事故における損害賠償は、加害者側の任意保険会社との示談交渉で解決されることが一般的です。
示談交渉では、これまでに説明してきた怪我を負ったことによる医療費や通院費、精神的損害に対する慰謝料、働けなかった期間の収入減少を補償する休業損害など、さまざまな項目が含まれます。
また、事故によって後遺障害が残った場合には、後遺障害慰謝料や将来の収入が失われたことによる逸失利益も重要事項です。示談での決定事項は法的効力を持ち、一度成立した示談を後からやり直すことは基本的に認められません。そのため、示談交渉は慎重に進めることが重要です。
保険会社はしばしば、弁護士基準よりも低い金額を提示してくることがあるため、示談交渉に詳しい弁護士に相談し、法的サポートを受けることが得策です。
示談に要する期間は事故の内容により異なり、物損事故や軽傷では数ヶ月から半年程度、後遺症が残る事故では半年以上かかることがあります。また、示談金額や過失割合の提示を受けた際に、その内容に納得できない場合には、冷静に交渉し、金額の見直しを求めることが可能です。
裁判をする場合
示談交渉が思った通りに進まず合意に至らない場合、民事裁判を検討することが選択肢の一つです。
交通事故の裁判は民事裁判と刑事裁判に分かれますが、損害賠償は民事裁判で争われます。民事裁判は被害者が加害者に対し損害賠償請求を行うもので、裁判所での訴えから始まります。裁判所では両者が証拠をもとに主張を行い、それを踏まえた裁判所の判断により賠償額が決定されます。
示談交渉よりも裁判を選ぶメリットは裁判基準による、より高額な損害賠償額が得られることや、示談では通常払われない遅延損害金を請求できる点にあります。また、話し合いが平行線を辿った場合でも、裁判の判決に基づいて解決が図られるため、当事者双方が合意を得られなくても問題の収束が可能です。ただし、裁判となると時間がかかるうえに、専門的な知識が求められるため、弁護士の力が必要となるでしょう。
行政上の処分はどうなる?
交通事故の責任は、民事と刑事、行政の三つに分かれています。それぞれについて解説していきます。
民事責任
交通事故における民事上の責任とは、損害賠償を通じて被害者の損害を金銭で補償する義務を指します。これは交通事故を起こし、他者に損害を与えた場合に追う責任であり、民法709条や自動車損害賠償保障法に基づいています。
損害賠償の内容には、怪我による治療費や通院費、入院雑費、生活の不便を補うための慰謝料、また、交渉の結果に応じて生活水準の維持に必要な金額が当てはまります。物の破損に関しても必要に応じて車両修理費が対象となります。
被害者との交渉は、自動車保険の加入者であれば保険会社が示談交渉を行うため、与えられた立場を最大限に活用し、適正な補償金を受け取るように交渉を進めることが重要です。被害者自身でも交渉を行えますが、専門的知識が求められるため弁護士によるサポートを受けるのが一般的です。
刑事責任
交通事故における刑事上の責任は刑罰が科され、加害者の過失によって人を死傷させた際などに問われます。従来は業務上過失致死傷罪が適用されることが多かったものの、現在は自動車運転過失致死傷罪が主に適用されています。たとえばこの罪は、運転ミスによる人身事故などが対象となり、7年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、飲酒運転や無免許運転、あおり運転といった悪質な運転が伴う場合には危険運転致死傷罪が適用されることが多く、この場合にはより厳しい処罰が科されます。たとえば怪我の場合には15年以下の懲役、死亡事故の場合には1年以上20年以下の懲役が課されるのです。
こうした刑事上の責任は社会秩序の維持と被害者の権利保護を目的としており、裁判によりその責任が明らかにされます。
参考:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
行政責任
行政上の責任としては、無免許運転や飲酒運転など、重大な違反が伴う交通事故の場合には免許取消しや停止といった処分が下されます。
これらの処分は、刑罰ではなく公安委員会が行う行政上の措置であり、交通安全の確保を目的としています。行政処分は交通事故の状況やその結果によって異なり、違反点数の累積に応じて具体的な処分が決まります。
たとえば、軽微な違反であれば免許の一時停止に留まる場合もありますが、重大な過失が認められる場合には免許が取消されるなど、制裁の程度はさまざまです。
まとめ
人身事故で請求できる賠償金の内容や事故に遭った後の流れについて解説しました。人身事故に遭った際には、最初の対応がその後の手続きに大きな影響を与えることを理解しておくことが大切です。警察への連絡から損害賠償請求まで、しなければならないことは多々ありますが、一つひとつしっかりと対応しましょう。
交通事故は突然発生するため、事前に基本的な知識を身につけておくことが、事故発生時の混乱を避ける重要な手段となります。