自家用車を業務に使ってもいい?メリットや企業がすべき対策をご紹介
自家用車とは
個人が所有または家族から借りている車両を自家用車と呼びます。私的に使用する車両であるため、特定の車種に限定されることはありません。ただし、企業や職業によっては、派手な色彩や高級輸入車の使用が、取引先に不適切な印象を与える可能性があります。このような状況では、自家用車の選択に一定の配慮が必要です。
この記事では、自家用車を業務で使用するメリットや注意点について解説します。
自家用車を業務に使うメリット
自家用車を業務に使用すると、企業と従業員の双方にメリットが生じる場合があります。
コスト削減につながる
企業が従業員の自家用車を業務に活用することで、社用車にまつわる多くのコスト削減が期待できます。
企業は自社で社用車を購入する必要がなくなるため、購入費用を大幅に削減でき、それに伴い車両保険料や維持費、駐車場代も軽減されます。
また、企業の保有する車両数が減るため、管理にかかるコストの削減にも繋がります。これにより、経営資源をその他の分野により有効に活用することが可能になります。
業務の効率化につながる
従業員の業務効率が向上する可能性があります。
直行直帰がしやすくなり、会社に立ち寄ることなく目的地へ向かえるため、移動時間が大幅に削減されます。これにより、本来の業務に充てられる時間が増えて生産性の向上につながるとともに、働き方の自由度が増してワークライフバランスの向上にも一役買います。
また、荷物の多い日でも快適に移動できるのは大きな魅力となります。公共交通機関では困難な場合でも、自家用車なら余裕を持って荷物を運べます。これは営業職や外回りの多い社員にとって、特に重要な利点となるでしょう。
心理的ストレスを軽減できる
業務で社用車を使用する際、多くの人が心理的なストレスを感じることがあります。車種によってシフトレバーやサイドブレーキの位置が異なるなど、慣れない環境での運転が原因となるからです。
自家用車を業務に使用することで、ストレスを大幅に軽減できる可能性があります。日頃から乗り慣れた愛車であれば特性や癖を熟知しているため、安心して運転に集中できるからです。
自家用車の利点は心理的な安定だけではありません。車の挙動や性能を把握していることで、より安全な運転が可能となり事故のリスクを低減させることができます。
自家用車を業務に使う際に企業が行うべきこと
企業が従業員の自家用車を業務に使用する場合、事前の準備と周知が必要です。
自家用車の使用に関する規定を策定する
企業が従業員の自家用車を業務に活用する際には、事前の適切な規定策定が不可欠です。企業と従業員双方を守るための取り組みとして、使用できる範囲や責任所在、保険基準などを定めておきましょう。
自家用車を使用できる範囲
自家用車の業務使用に関する規定を策定する際、企業は使用許可の距離基準を明確に定める必要があります。自宅から事業所までの距離や最寄りの公共交通機関までの距離など、具体的な数値を設定しましょう。
また、使用許可の範囲も重要です。自家用車の業務使用を認める場合と認めない場合をはっきりと規定して禁止する文言を盛り込むべきでしょう。
さらに、業務使用を許可する場合は、燃料費や駐車場代の精算方法、定期的な車両点検など、細かな点まで考慮に入れる必要があります。これにより、従業員の誤解を防ぎトラブルを未然に防ぐことができます。
事故を起こしたときの法的責任の所在
企業が従業員の自家用車の業務利用を認める場合、二つの重要な法的責任を負う可能性があります。
まず、「使用者責任」は、従業員が業務遂行中に他者に与えた損害について、企業が賠償義務を負うというものです。この責任は、従業員の行為が会社の事業の一環として行われたと判断される場合に適用されます。
次に、「運行供用者責任」は、従業員の運転する車両の運行により他者の生命や身体に害が及んだ場合、企業が損害賠償責任を負う可能性があるというものです。この責任は、会社がその運行から利益を得ているか、または直接・間接的に指揮・監督できる立場にあるかどうかで判断されます。
これらの責任は、特に企業が自家用車の業務利用を許可または黙認している状況で問題となります。そのため、企業はマイカー通勤規程の策定や適切な車両管理など、リスク軽減のための対策を講じることが重要です。
事故発生時、当事者はパニックに陥りがちです。そのため、緊急連絡先や報告手順を明確にし、従業員全員が把握していることが大切です。これにより、迅速かつ適切な初期対応が可能となり、被害の拡大を防ぐことができます。
さらに、定期的な安全運転講習の実施や、車両点検の義務付けなど、予防策も忘れずに取り組むことにより、事故リスクを大幅に低減できるはずです。
社用車で事故を起こした時の対処方法や責任所在については、こちらの記事詳しく解説しています。
https://oppice.parkingmarket.co.jp/article/maintenance/958/
加入する保険の基準
企業が業務で従業員の自家用車を使用する際は、自動車保険について考慮する必要があります。
任意保険は法的に義務付けられてはいないものの、業務中に事故が発生した際には従業員個人の保険が適用されます。自家用車を業務に使用する際には任意保険加入を義務付けるほうがいいでしょう。
従業員が自家用車を月に15日以上業務で使用している場合、その保険契約を「業務用」もしくは「通勤」に変更することが求められます。
保険の区分を変更することで保険料が増える場合があります。この費用の負担については、企業と従業員の間で明確にしておくことが重要です。なお、自動車保険会社によっては「日常・レジャー」区分でも通勤が含まれることがありますので、各社の規定を事前に確認し、従業員とともに適切な対応を取るようにしましょう。
規定を社員に周知する
自家用車の業務使用に関する規定策定と周知は、企業にとって重要な責務です。規程を定めるだけでなく、従業員への徹底した周知と管理が不可欠です。黙認は企業側の過失とみなされかねないため注意が必要です。
規定には、安全運転への注意喚起や運転中のスマートフォン使用禁止、漫然運転防止などの項目を盛り込むことが大切です。これらの内容を含む別冊子を作成し、自家用車の業務使用該当者だけでなく、社用車を運転する可能性のある社員にも配布するのが望ましいでしょう。
周知の方法としては、入社時や定期的な研修で説明を行うほか、社内ネットワークシステムでの掲示なども効果的です。また、運転記録や車両点検の報告を求めるなど、継続的な管理体制を整えることで、従業員の意識向上にもつながります。
車両の管理を徹底する
自家用車を業務に活用する際、使用規定を策定し従業員への周知徹底をしたら、企業は細心の注意を払い管理をしていきましょう。
従業員からは、免許証・保険証・車検証のコピーを事前に提出してもらいましょう。これらは事故発生時に不可欠な書類です。有効期限にも注意が必要なため、定期的なチェックを怠らないようにしましょう。「自家用車通勤申請書兼誓約書」の提出も求めるのが一般的です。この書式は企業独自に定められますが、参考となるフォーマットも存在しますので確認してください。
提出された書類の管理も重要な課題です。法律で明確に定められているわけではありませんが、労務管理の一環として適切に保管する必要があります。プライバシーに配慮しつつ、必要時にすぐ参照できるよう整理しておくことが大切です。
また、自家用車を業務利用している車を含め、業務用として使用する社用車が事業所に5台以上ある場合、安全運転管理者の選定が義務付けられています。管理者業務は以下の通りです。
- 1:運転者の管理と評価
- 2:運行計画の策定
- 3:長距離・夜間運転への対応
- 4:異常気象時の安全対策
- 5:日常的な安全確認
- 6:記録の管理
- 7:継続的な安全教育
- 8:アルコールチェックの実施
企業は規定や手続きを管理運用することで、従業員の安全を確保するとともに事故やトラブルのリスクを最小限に抑えることができます。
安全運転管理者について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
https://oppice.parkingmarket.co.jp/article/manegement/1038/
まとめ
自家用車の業務使用は、企業と従業員の双方にメリットをもたらす可能性があります。コスト削減や業務効率の向上、心理的ストレスの軽減など、その利点は多岐にわたります。
しかし、その導入には慎重な準備と配慮が欠かせません。企業は、使用規定の策定から従業員への周知、そして車両管理の徹底まで、綿密な計画を立てて実行する必要があるでしょう。
特に、事故時の責任所在や保険加入基準などは、明確に定めておくことが重要です。また、安全運転管理者の選任や定期的な安全教育の実施など、継続的な取り組みも求められます。
そして、従業員は自家用車を業務に使用する際の責任を十分に理解し、安全運転に努める必要があります。会社の規定を遵守し、必要書類の提出や定期点検を怠らないことが大切です。
自家用車の業務使用は、適切な管理ができれば企業と従業員の双方にとって有益な選択肢となり得ます。企業と従業員が協力し合い、安全で効率的な業務環境を築いていきましょう。